26
ごく近くに穿界門が開く。
浦原商店の店長は顔をあげて、やれやれと首を鳴らしながら軽く息を吐いた。
「…今日は忙しいッスねぇ」
目の前に現れた二人の死神。昨日尸魂界へ戻ったはずだったが。
だが来訪を予想していなかったわけではない。
「虚圏へ行く。力を借りてェ」
赤毛の死神が言い、頼むともう一人が言った。
多くを語るには時間が足りない。そも必要もない。彼らの覚悟がいかほどのものか、今更確かめる必要など。
喜助はどうぞ、と二人を地下へと導いた。
「…一護は、先に行ったのだな」
どんなに神経を研ぎ澄ましても見つからない霊圧。言ったルキアは腹立たしげに見えた。恋次もまた呆れ半分、腹立ち半分に応える。
「ったく、堪え性のねェ野郎だぜ」
「お二人に言われたくはないでしょうねェ、黒崎さんも」
「何だとォ」
「五月蝿いぞ、二人とも」
それに私は何も言っておらん。
どうせあちらで落ち合った時には散々言うであろうにとはルキアの強く寄った眉から想像に難くないが、喜助も恋次も口には出さずにおく。
地下の開けた空間に、黒腔を開く為の装置。先刻閉じたばかりでまだ大した時間も経っておらず、周囲にはその名残が漂っていた。霊圧の微調整を加えて、喜助が振り返る。
「さて。そんじゃ準備は良いッスか?朽木サン、阿散井サン……サン?」
トッ、と軽い音。
「ッ!?」
「な―――なんで、お前がここに、」
喜助の声に応じて、二人の背後に現れたのは確かに、その人だった。驚きに目を白黒させる恋次たちには取り合わず、は喜助に頷いてみせる。
「頼む、喜助」
「流石にサンも、虚圏までは無理ッスかね?」
「やったことがないから分からない。兎に角今は危ない橋を渡らずとも」
「ま、そうッスね。そんじゃあ三名様ご案内ってことで」
「ちょっ、ちょっと待てィ!」
二人を置いてさくさくと進む会話に、漸く恋次が声をあげた。
「お前、…虚圏に行くつもりなのか、つーか、どうやって現世に」
今や尸魂界の警戒態勢は尋常ではない。尸魂界内に関しても、その外に通じる道に関しても。
自分たちが現世に来れたのも白哉の協力が得られたからに他ならない。そんななかにあって一体どうして。
「ま、ま。それは今はこっちに置いといて」
「いやいやいや、置いとけねェだろ、重要だろ!」
もしや自分たちを連れ戻しに来たかと慌てて突っ込むが全く黙殺される。その上、相方の援護も得られなかった。
「……確かに、詳しい事情を詮索している暇はない」
ため息と共にルキアが言う通り、一足先に一護たちが虚圏に向かってからもう結構な時間が経っている。藍染の元にいる井上のことも考えれば、一刻も無駄に出来ない。
「だが、一つだけ」
射殺すほど、強い眼差しがを見た。
「私たちは井上を助けに行く。もしそれを阻害するというのならば」
すらりとルキアの純白の斬魄刀が閃いて、真っ直ぐにの喉笛を指す。
「ここで留め置く」
出来るか否かは問題ではない。ルキアの本気が冷気となり肌を刺激する。対峙するにもそれは伝わっているはずだった。
「…俺は俺の目的の為、虚圏へ行く」
「藍染に会う為か。会って後はどうする、奴らの元に下るか」
「おい、ルキア…」
「黙っていろ、恋次」
あまりと言えばあまりの言葉に口を挟む恋次を一刀に切り捨て、尚も視線と切っ先をに定めたまま、ルキアが答えを迫る。
ルキアの冷たい霊力のなかに別のものが混じった。下るつもりなどない、とその言葉こそがまさしく研がれた刃のようだった。知らず知らず、恋次の足が半歩下がる。
「ならば誓え。今ここで」
切っ先が一歩分迫った。それが微かに震えていたことにルキア自身は気づいていなかった。
「井上を助けるため行くと。藍染とその配下は敵だと、違えるな」
息が白くなる。足元が地に張りつく。
「言えばそれだけで納得すると?」
「如何にもそうだ、最早貴様に本心の吐露など求めておらん。このすっとぼけの、鰻め」
文字通り凍りつく空気を叩き割ったのは、喜助の堪えきれなかった笑いだった。ぶはっ、と間抜けな音に緊張は一気に霧散した。如何にも可笑しいと腹を抱える喜助の様を胡乱気に見やって、とうとう諦めたようにが肩を落とす。
「……分かった、誓おう。その言葉通り」
の返事にそれで良いのだと言わんばかり鼻を鳴らせ、漸くルキアも刀を鞘に収める。
「鰻、鰻ッスかぁ…まぁ言い得て妙と言いますか…」
「狸は黙っていろ」
ルキアの鋭い一瞥も狸には恐れるほどのものではないらしく。
それじゃあハイ、よろしいですかね。
お終いとばかり喜助の扇子がパンと鳴り、呪式が開始された。
複雑な霊力の交差に圧倒される。やはり元技局長の名は伊達ではないと、わかるだけまだマシかと自嘲にも似た思いが恋次の胸中にふつふつと湧いた。
「…それでは、改めまして」
三名様、ご案内。
平淡だが凄味を感じさせる喜助の声と共に、混沌が大きく口を開き始めた。
2011/03/20
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