13
双極の丘で行われたのは一方的な暴力だった。藍染の凶刃に、適う者はなかった。全く赤子の首を捻るほど容易く恋次と、駆けつけた狛村も一護も斬り伏せ、一人ただ自失するルキアを猫の仔のように吊り上げる。
そして儀式が始まった。
崩玉を取り出すための。
ルキアと藍染取り囲む、一見小規模、簡易でありながら強力な力を秘めた結界。
術式を施した藍染の右手が、ルキアの胸を貫いた。瞠目する一護の目に、それが姿を現す。
「…驚いたな、こんな小さなものなのか」
恐らく、それこそが全てのはじまりのモノ。
さしたる特徴のない、指先でつまみ上げられるほど小さな球体を手に藍染が呟く。打ち捨てられたルキアの体が穴を塞いでいく様に淡々と評価を下しながら、だがそれ以上の興味は示さず。
殺せと一言。一護の体は動かずにいた。ただ力の入らない拳に力を込めるだけ。
市丸の斬魄刀が、伸びた。
「……な…」
が、その斬魄刀が貫いたのはルキアではなかった。
「……兄、様…!」
藍染の手からルキアを奪ったのは、白哉。
だが市丸の斬魄刀をその身に受けたのは、白哉ともう一人。
目を見張ったのは、ルキアだけではなかった。一護も、市丸も、そして身を挺してルキアを守った白哉すらも。
「、さん…!?」
市丸と白哉の間、市丸の斬魄刀が貫く、の右横腹。
ルキアの目に映ったのは、見覚えのある大きな、死覇装の背中だった。
「…っ、」
「兄様っ…!」
何故、とルキアの声を聞きながら白哉が膝から崩れ落ちる。市丸の斬魄刀が離れると、ごぷ、と嫌な音がしてどす黒い血が、と白哉の体からあふれ出た。二人から距離を置く一護にもはっきりと見える、尋常ならざる出血だった。ややあってから、も片膝をつく。
「君か…」
藍染の呟きに東仙はその盲いた瞳を細めた。
恋次とルキアをここに連れてくる際、致命という程ではないが動けない程度には傷を負わせたはずだったのだがどうやら甘かったらしい。或いは運よく誰かに助けられたか、どちらにしても己の失態には変わらない。名も知らぬ一介の死神がこの場をどうにかできるものなどとは露ほども思わないが、実際に藍染の邪魔にはなっている。
こうなれば自らの手で始末をつけるべきだと斬魄刀に手をかけたが、市丸に無言で制せられた。黙ってみていろと示しているのが分かる。何か思惑でもあるのかその力は存外強い。自分が従うのは藍染であって市丸ではないが、確かに藍染にとってあの死神など羽虫も同じで、そうなれば抗う理由も見つからず不承不承ながら東仙は刀から手を放した。
「藍、染」
がその口を開くたび、血が流れていく。だが意識を手放しはしない。
肩越しに見上げる瞳が、藍染の手にあるものを認めて見開かれた。
「崩玉、を」
「ああ。既にこの手の内だ」
最早君にできることはない。
藍染のその一言に、バキン、と硬質なものに亀裂が入るような音がした。の霊圧が跳ねあがる。藍染たちのものとは異なる圧迫感が一護たちを襲い、巻き起こる砂塵に思わず目をつむる。
「―――貪れ、」
力ある言葉。肌がビリ、と痺れる感覚。
「絶虎」
2011/01/18
|