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ルキアを抱えた恋次が、双極の丘を飛ぶように駆け下りる。誰にも見つからぬよう点在する霊圧の間を縫って走る背に、一分の乱れもない、無機質な呼びかけがかかった。
「お前、…!?」
夜明け前に目にした、薄墨色だった。
「お供いたします」
驚いた恋次が何故、を口にするより早く告げて隣に並ぶ。その腕に抱えられている者と併走する者と、双方の目が合った。
「…あなたは…」
「知ってんのか!?」
「一度だけ…現世で、お前と兄様に連れ戻される前に…」
恋次と同じく驚きに目を見開くルキアの言葉を、がわずかに頷いて肯定する。一方の恋次の混乱は酷く、元よりそう知略を巡らせる性質でもない頭が沸騰しそうで、文字通り、吼えた。
「ッだぁぁぁ!!わけわかんねぇぞコラァ!!」
抱えたルキアがぎゃあと叫び、も鬱陶しい前髪の奥で眼を瞬く。
「お前マジでどこのどいつだよ!?きっちりはっきり説明しやがれ!!」
死神で、名前はといって、夜一の知り合いらしく、とりあえず敵ではない、模様。
らしいだとか一応だとか、確かな情報が少なく理由も分からないのに自分たちに手を貸すのがかえって気味悪い。ただ夜一の仲間だからその指示に従っているというには無視できない実力が見え隠れしていて、意図もなく誰かの下につく類の男には見えなかった。
大体において今は謎が多すぎる。
一連の騒動に何か大きな謀が暗躍していることぐらい、恋次も勘づいている。だがそれ以上が一向に見えず、据わりの悪いことこの上ない。
「…それよりも」
「おい!」
「今はこの場を離れることが先決です。どこへ逃れるか、ご算段は?」
はぐらかされまいと口を挟んだが、至極もっともな言葉にぐっと黙らされた。双極から逃れた後のことを考えていなかったのもその通りだった。押し黙った恋次に一瞥もくれず、は続ける。
「では流魂街へ」
「流魂街だと?」
「西へ行けば、現世に行く手立てがあります」
「…現世に…」
確かに死神たちの手を逃れ身を隠すに現世は無難だが、無難に過ぎて誰でもすぐに思いつく。だからこそその通行手段、穿界門は厳重に警備されているのだし、自分たちは地獄蝶も従えていない。更に言えば現世に逃れたとて、その後どうするかも問題だった。
「匿ってくれるものが、現世で待機しています」
「それは…もしや、」
現世で係わった男の名がルキアの頭に浮かぶ。死神の力を失った自分に何かと手を貸して、挙句一護たちをこの尸魂界へ送り込んだ者。
「浦原喜助、です」
2011/01/14
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