11

 遠くにいる者も近くにいる者も、或いは流魂の地にいる者でさえ感知しているかもしれない。
 強大な炎の鳥。
 絶対無比の。
 対峙するのは同じく巨大な磔架。あの鳥の眼差しの先に、裁かれるべき罪人、朽木ルキアがいる。
 見ていられないのに、目が離せない。
 ある者は欠片も残さず焼き尽くされることを哀れんだ。ある者はあの炎ならば確かにどんな罪も過ちも無に返してくれるだろうと頷いた。
 有象無象の想いを受けながら、鳥が大きく羽ばたく。いっそ優雅なほど力強く、美しく。巻き起こる熱風が空を走った。
 刑は執行され、命が消えた。誰もがそう思った。
 だが。
 わずかに時を置いて、困惑の声があちらこちらであがりはじめる。
 鳥が磔架の寸前で動きを止めていた。まるで何かに押し留められたように。
 遠目には分からない。近くて我が目を疑う。
 ヒトの姿、同胞、死神が一人、炎の真正面に。明るい陽の光と同じ色の髪をしたあれは。

 ―――旅禍の。
 ――― 一護。

 馬鹿な、と誰かが呟いた。
 桁外れの霊力がぶつかり合い混じり合い、生半可なものでは見守ることも適わない。
 双極が破壊された。
 磔架も、断たれた。
 何故、何時の間に、どうやって。
 理解出来る者は少なく、受け入れられる者は更に限られ、多くはただ茫然とするだけだった。渦巻く霊圧に身を震わせながら。



 緋色がまだ混乱の最中にある双極の丘を駆けた。
 背後に幾人もの強者、頭上に破壊された磔架、胸に友を抱き、かつて刃を交えた少年に見守られて。
 阿散井、とその名を呟いた勇音の声に困惑と共にわずかな安堵の色が含まれていたことには誰も、自身も、気づかなかった。

「何を呆けておるのだうつけ共ッ、追え!副隊長全員でだ!!」

 砕蜂の叱咤に弾かれて三人、一、二、四番隊の副隊長が飛び出す。が、陽色の旅禍がその行く手を阻んだ。

「邪魔だ、どけぇ!!」

 怒号と共に副隊長三人が抜刀、始解する。全員その肩書きに相当な力の持ち主であり、彼らに容赦はなかった。けれど一瞬の後、地に伏していたのは一護ではなく三人。対して立っていたのは一護と、もう一人。

「な…貴様、は」

 その場にいた隊長格の誰も、見覚えのない死覇装の男、死神だった。

「……さん!!」

 突然の乱入に驚いたのは一護も同様だったが、その名を呼ぶ声には喜色が混じっている。と呼ばれた死神の手には抜き身の斬魄刀。

「貴様……ッ」

 旅禍だろうと死神であろうと男が刀を向けた事実に間違いはなく、自分たちの敵とみなす事に対して砕蜂や白哉が躊躇う理由はなかった。
 隊長羽織の白が一つ走る。反応は、ほとんど同時だった。二振りの斬魄刀が鋼の音を立ててぶつかり合う。

「…見えてるって言ったろ。朽木白哉!」

 三度目の対決の合図だった。
 が地を蹴る。
 向かう先は二番隊隊長、砕蜂。迎え撃つ側はの実力どころか、自隊と言えど十九席などその存在すら認識していない。
 だが獲物を狩る獅子と同じく持てる最大限の力で討つと、そのつもりだった。護廷の一隊長の名にかけて、油断など。

「ッ!?」

 それをあろうことか、横から別の攻撃を受けるとは。砕蜂は勿論、とて予想だにしていなかった。事実は乱入者がその場の誰よりも速かったと、言葉にすればそれだけのことだけれど。

「貴様は先に行け!!」

 突如として砕蜂を横から襲撃した塊が叫ぶ。定めた目標を掻っ攫われて踏鞴を踏んだだったが、馴染みの声を聞いて一も二もなく踵を返し掻き消えた。
 朽木白哉と一護。
 砕蜂と、夜一。
 余計な役者は消え場は整った。何の手出しも許さない、互いの存在をかけた譲れぬ戦いのための舞台が。

2011/01/09







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