06
病室は静まり返っていた。据えられた寝台の傍らに佇みながら、己の呼吸音だけが耳につく。じっと注意して見つめていれば寝台の上の小柄な体、その胸が微かに上下しているのが分かる。だがあまりに静かで、恐ろしくなる。本当に、まだ、息をしているのか。
「檜佐木」
入口からかけられた声に振り向く。だった。
「病室を勝手に抜け出すな。担当の者が心配していた」
「ああ…悪い」
気のない返事に、特にの反応はなかった。檜佐木の隣に立ち、同じく寝台を見下ろす様子から連れ戻しに来た訳ではないのだと勝手に解釈し、そのまま動かずにいた。
つん、とその隣から新たな薬品の匂いが鼻をつく。
「そっちの、具合は?」
「大事はない。後二日もすれば包帯も取れると」
「そうか。そりゃ何よりだ」
「お前の方は」
「熱はもう下がったけど、こっちはまだな」
固定された右腕を軽く振って見せる。しっかり固められている為痛みはさほど感じない。
―――散々、だった。
まず調査隊がやられた。全員戻るには戻ったが、まともに立っていられた者はいなかった。すぐさま自分とを頭に二手に分かれて打って出、結果標的を倒しはしたが檜佐木自身もも、誰も無傷には済まなかった。
「隊の方は、どうだよ」
「特に問題ない。巡回も済んだ」
腹と腕に傷を負いしばしの休養を余儀なくされた自分に代わり、あくまで比較してだが軽傷のが今は隊務を一手に引き受けている。とは言えその肩には自分と同じく白いものが厚く巻かれていて、そして、目の前で横たわるは全身白で包まれていた。顔の半分が隠れて、唯一表に現れている目は固く閉ざされたまま。
正しく傷物に、そっと手を伸ばす。
管の繋がれたの腕は、冷たくはない。だがピクリとも動かない。
傷はいずれ治るだろうと、四番隊隊長の卯ノ花は言った。時間はかかるが重要な筋や鎖結等も傷ついていないから復帰も可能だと―――意識さえ、戻れば。
「………檜佐木」
短くない時間が経ち、己の病室へ戻れとが言うのを無視して尋ねた。
「お前、家って、知ってるか?」
矢鱈長いまつげの一本、動かさないのを見下ろしながら。
「、家」
「上級貴族の一つでな。四大貴族とまでは行かなくてもかなり上等の…京楽隊長ンとこと同じくらいの格式らしいぜ」
「……は、その家の出なのか」
「俺もついこの間知ったばっかなんだけどよ」
きっかけはあの、貴族会合の際を訪ねてきたという男、多賀谷孫兵だった。
はただ偶然知り合っただけだと言ったが、調べてみればすぐ分かった。多賀谷家もまた貴族、しかしさほど身分は高くなく、上級貴族に代々仕えることで生計を立てる身であり、その仕える家と言うのが他でもない家なのだった。
「そうか」
の相槌はしかし簡潔で、だからどうしたと雄弁だった。
そうに違いない。だからどうした。
そうに違いないのに、何故己はあの時、だからどうしたと、言わなかったのか。
やはり変化は常の通り、己の関与できる範囲の外で勝手に湧き出て、勝手気ままに己をかき乱す。
2011/05/06
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