03

 貴族会合の日。
 百を超える貴族たちが一堂に会す豪奢な会堂。その周囲、東の一角に配置され、油断なく担当区域を見回っていた堂本は、ふと数人の塊を見つけ足を向けた。
 集まっているのは三人。己と同じく見張りの男たちが二人と、他に一人。

「何事だ」

 背後から声をかければ、二人がこちらを振り向いた。

「堂本六席」
「何をしている。最中に気を抜くな」

 別段気配を隠してもいない自分に易々と背後を取られたことを咎めつつ説明を促せば、躊躇いがちに一人が口を開いた。

「それが…こちらが、三席にお取り次ぎを、と…」
三席に?」

 怪訝そうに見遣った先には、初老の男。集まった貴族の付き人だろうか、身なりは悪くない。殊更睨んだつもりもないが、男はびくりと身を強張らせた。

「一体何用で」
「いえ、その。大した用では」
「三席とはどのような?」
「…以前お世話になった者でして…。ああ、やはり出直させていただきます。お忙しい最中、失礼を致しました」

 男が言うのと同時、休憩にでも入ったらしく、会堂の方がにわかに騒がしくなる。やはり誰かの付き人であるのか、男もそそくさと会堂の方へ向かおうとした。

「待て」
「……何か?」

 呼び止められ、明らかに男の目が泳ぐ。見た目も霊圧もごく普通の、ただの男であるようにしか見えないが。

「三席に伝えておこう。名前は」

 男にも分かるよう、わざと鞘を鳴らして見せる。安っぽい仕草で好かないが、男をぎくりとさせるには十分らしかった。その上で偽りは許さぬと目に力を込めてねめつければ、男がぼそぼそと名乗る。

「多賀谷…孫平と、申します」
「分かった。必ず伝えておく」

 何故この時に、警護する側もされる側も気を張っている今に、人目をはばかるようにひっそりと取り次ぎを求めるのか。件の三席は不在であるが、そのことと何か関係があるのか。必ず、とは怪しげな男へ半ば脅しのつもりで言った言葉だった。
 堂本の殊更強い眼差しに男はやはりおどおどと迷うようにしながら、が、しかし。深々と、頭を下げてみせた。

「…よろしく、お願い致します。どうか―――」

 明らかな懇願の眼差しだった。
 言い残されたその名を果たして誰に伝えるべきか、それから警護中ずっと堂本は頭を悩ませたのだった。

2011/05/05







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