『10.改めまして…』
「馬鹿だな、お前」
「馬鹿ですよね」
「うん、ちょっと、…だいぶお馬鹿だよね…」
多分最後のが躊躇いがちながらも一番高い攻撃力を持っていた。
かつて四番隊の病室でに自分がしたように、今度は恋次自身がそれも他三人に取り囲まれて一同異議なしの厳しいお言葉をいただくとは。場所は人目の少ない茶店の一席ではあるけれど。
成程ヤツもこんな居たたまれない心境だったのだなと改めて申し訳ない気持ちになる。確かにこれは辛いですスイマセン。
「流石にアレはないわ〜」
「ないですよ。聞くだけでイタいよ」
「先輩が可哀想だよ…」
やっぱり最後のが一番胸に突き刺さる。返す言葉もない。
自業自得の内容とは、先日にはたらいた破廉恥かつ無礼な行い。周りに昼休憩の隊士たちが山といたものだから、それは光と同じくらいの速さで護廷を駆け巡った。こうした噂話が好まれるという点において、この世もあの世も変わりない。
「しかしなんでンな事になったんだ?」
「と言うか阿散井君は先輩のこと好きなの?」
「それは…その、」
聞かれてすぐさま答えないのに、机がドン、と叩かれる。拳の主は雛森、常に柔和に弧を描いている眉がきりりとつり上がった。霊術院時代の鬼教師もかくや。
「好きなの違うの、どっち!」
前者ですなどと誤魔化す男で誠に申し訳ない。吹っ切るにはまだ羞恥が強い。先日の顛末も思い出す度、脂汗やら何やら色々分泌されて今にも喚いて走り去りたくなる。完璧な包囲網がそれを許してくれるとは思えないのでやらないが。
「じゃあ!どうしてハッキリ言わないでいきなりそんなこと」
「や、それは…その、頭打って何か朦朧としてて」
「あ〜理性ぶっ飛んでたんだな〜」
ちょっとそれは分かる、と言いかけた檜佐木が、分かるとかじゃありません!と雛森に噛みつかれて大人しくなる。もうちょっと頑張ってくれ。
あの時強か打ちつけた後頭部は今もなおズキズキと痛む。その痛みの所為でちっとも集中できない……色々なことに。
「なら今すぐ謝罪に行ってくる!理由もちゃんと話す!」
男前ですね雛森さん。でもそれは、
「…出来ねぇ…」
「なんでッ!?」
「びびってんのか?」
「怖いの?」
うっさい黙れ独り身。ああ俺もですけど。
「だってあいつ…別に、男…いると思うし」
「え!さんて男いたのか!?」
「僕だって知らないですよ」
「それ本当?阿散井君」
「誰か分かってんのか?俺らの知ってる奴?」
「多分、技局の…阿近さんだと…」
三人が三人とも、はぁ?と目を丸くし眉をひそめ首を傾げた。何かイラッとくる表情だ。いやそんなこと今は言わないが。
「…あ、こん、さん〜?おいマジかよ?」
「あの人と先輩が…?」
「…想像出来ないんだけど」
俺だって出来ない。と言うかしたくもない。自覚をすると同時に打ちのめされたあの時の衝撃が思い出されて頭を抱える。
流石に追撃の手を緩めた雛森が、ねぇ、と躊躇いがちに口を開く。
「それ、本当に本当?ちゃんと確かめたの?」
きっちり本人の口から聞いたわけではないけれど、あの表情は多分勘違いじゃないと思う。色を恥じらう女のする顔だろ、あれは。そういう女の顔を見たことがないわけじゃないんだ。のそれは確かに初めてだったわけだが。
ため息が三人分。プラス自分。
だがその含む意味は違ったらしく。吉良が苦々しげに口を開く。
「でも…それとこれとは別問題だと思うよ」
「そうそう」
「阿散井君が先輩にしたことはちゃんと謝らなきゃ」
「うんうん」
「もし先輩が阿近さんと、その、付き合ってるなら、きっと阿近さんだっていい気はしてないだろうし」
「だよなぁ」
一名相槌しか打ってねぇな。どうでも良いけど。
「…ああ」
自分のことで頭がいっぱいになっていたが、雛森たちの言うことはもっともだった。
「行ってこいよ、阿散井」
フられたら一晩でも愚痴聞いてやっから!ってやたら良い笑顔なのが引っかかるんスけど。一月前あんたのそれに付き合ったばっかだってのもう忘れてんのか。
「僕も、ちゃんと話した方が良いと思うよ。ここまで来たんなら変な遠慮しないでさ」
「うん…仲良かったんだし、ね?」
拗れたままって、阿散井君も気分良くないでしょ?
困ったような雛森の笑み。後光が。後光が差している。
「―――行ってくるわ、俺」
おう!と思い切り檜佐木に背中をど突かれたが返って気合いが入る。
そうだ、気合いだ気合い!うじうじ悩むのは性にあわねぇ行ってこい俺!
「…………んで、なんであんな勘違いをするに至ったんだ?あいつは」
「僕が聞きたいです」
「ていうか先輩、付き合ってる人いませんよね」
「いねぇよ、そりゃ間違いねぇ」
「いたら“仮眠室の主”なんかやってないだろうし」
「…もしかしたらそれかも、勘違いの原因」
「え、何。どういうこと?」
「うぅーん…もしそうなら非常に言い辛いですが多分兎に角、先輩にも非があるってことかな…」
2011/04/30
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