『07.喧嘩だって必要』

「お前……馬鹿だろう、
「………」
「変わってるとかは思ってたけど、その程度で済むもんじゃねぇよ。これは」
「………」
「お前、馬鹿だよ…」

 深々と吐き出されたため息と最早疑問の態を取らなくなった恋次の言葉に、生憎とその場にいた誰も反論の気力も根拠も持ち合わせていなかった。言われた本人でさえも押し黙り甘んじて受けているのはその通りであると認めているからに他ならない。せめてもの抵抗とばかり、上掛けを頭まで引き上げはしたが。
 四番隊の、病室の寝台の上で。

 が四番隊に担ぎ込まれたと恋次に知らせたのは共通の友人、五番隊副隊長の雛森桃だった。
 は元四番隊の第五席。相当の治癒鬼道の使い手でありながら四番隊に送られたということは、その手に負えない程の傷を負ったということ。
 恋次も雛森も聞いていなかったが大きな討伐事案があったか、一体どんな虚にやられたのか、の安否は。
 三番隊のイヅルも、九番隊の檜佐木も、知らせを聞くなり四番隊へと駆けつけた。皆とは親しく、心底心配して仕事もそのままに自隊を飛び出してきた。そんな風に慌てふためき集まった恋次達に告げられた事の顛末とは果たして。

「自分の部屋で本の雪崩で窒息寸前なって運び込まれるとか…マジで…」

 勘弁しろよ、と脱力の手本があるとしたらこうだと言わんばかりの姿で恋次が再び息を吐いた。
 常から危ないと思われていたの自室の、本の塔がとうとう雪崩を起こしたのは早朝。塔と塔の隙間で横になっていたはいつぞやの恋次のように、ものの見事にその波にのまれた。経験のある恋次には多少の想像がつく。さぞかし重く息苦しかったことだろうが同情の余地はない。全ては自業自得の上、何らかの鬼道を使えば多少の被害はあれどすぐさま自力での脱出が可能だったところを。

「マジで…てめぇの命と本と、どっちが大事だってンだよ!?」

 己の蔵書に重きを置いたがゆえに、この結果だった。
 しかも雪崩を聞きつけた周辺の同僚たちが集まったためその重みで床がぶち抜かれ、また騒ぎは大きくなり情報が交錯した。弊害は恋次たちにも及び、不明瞭な知らせに翻弄されて結果、こうして一堂に会している。

「阿散井君、もうその辺で…ね?先輩ももう反省してるんだし…」
「…反省してたら、ここにこんなもんがあるハズねぇんだがな…?」

 病室に来てからずっと続いている恋次の説教に流石に気の毒に思えて雛森が助け舟を出すが、矛先は更に一段上に上がってしまう。の枕元、ひっそり添えられた四番隊の蔵書。今度ため息をついたのはイヅルだった。

「先輩…、しばらく休養しろって言われたんでしょうに…」

 頭まで引っ被っていた上掛けを目まで下ろして、ごめん、とくぐもった声が辛うじて病室の全員に聞こえたが。俺らに謝ることとかじゃないでしょ、と檜佐木が素っ気なく返す。
 本の雪崩からあわや窒息死というところを助け出され大事には至らなかった。しかし担ぎ込まれた四番隊での診断結果は雪崩で負った打撲やらの他、睡眠不足に栄養不足にその他諸々、兎に角元四番隊として(それでなくとも)有るまじき数値ばかり。つまりは二重の意味で入院となった。
 没収だと恋次に引き抜かれた本を視線が追うが、流石に分が悪いと知ってか枕から頭をあげはしなかった。

「ヘロヘロの体で任務に出て、危険な目に遭うのは自分だけじゃねぇんだぞ」
「前から言ってんだろーが、ちゃんとメシ食って睡眠とれって!」
「最後にちゃんと食ったのいつだよ?どーせ覚えてねぇんだろ」
「こないだも本読みながら歩いてて階段踏み外してたし!」

 雛森たちがようやっと落ち着きを取り戻してきても、恋次の方はまだ気が済まないらしい。徐々に小言も、他が首をかしげるような内容になっていく。

「何でそんなに熱くなってんだ?あいつ…」
「というかやけに詳しいような」

 に関して。
 何時の間にそんなに仲良くなったのかなぁと雛森がふと考える頃、それまで実に大人しく小言も聞いていた不摂生の権化もとうとう、一言。

「……うるせぇ」

 またそれにカチンときたらしい恋次が、ああ?と凄んだ。

「てめぇ、人がどんだけ肝冷やしたと思ってんだ!」

 もうここまで来ても引く気はないらしい。布団を跳ね上げて怒鳴り返す。

「同じことはもー他の奴等にも散々聞かされてンだよ、耳タコだ!」
「そんだけの馬鹿やったんだろが!」
「なんでてめーにそこまで説教されなきゃなんねンだ、お前はあたしの母親かよ!?」

 メシとか睡眠とか!細かいんだよ!

「言われねーと出来ないからこうなったんだろ、何処のガキだ!」

 バン、と机を叩く恋次。勢い、上に置かれていた湯呑が倒れ、まだ半分以上あった中身が運悪く先ほど取り上げた本の上にぶちまけられた。の悲鳴に近い声が上がる。

「あ、あ――――!!!」

 何てことを、と伸ばした手が遮られた。

「こんな時でもこっちかよ!?全っ然懲りてねぇじゃねーか!!」
「…ッ、ふざけんなボケナス!!」
「ボケ…ッ、てめぇぇ!!」
「ちょ、待っ」
「―――何やってるんですか!」

 寝台の上に立ちあがったを雛森が慌てて止めにかかる。騒ぎを聞きつけた四番隊隊士も駆けつけ、野次馬まで集まってきてしまう。

先輩、落ち着いて!阿散井君も!」
「相手は怪我人だって!」
「兎に角外!外連れてけ!」
「その前に一発殴らせろ!」
「こっちのセリフだ、馬鹿野郎!」
「どっちが馬鹿だ、この赤毛猿!」
ー!!」
「いい加減にして下さいぃぃッ」

 吉良に引きずられていく恋次と雛森に押さえられると。野次馬を散らせながら何でこんなことになってるんだと檜佐木は首を捻ったが。生憎と明確な答えを返してくれる者は誰一人としていなかった。

2011/02/27







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