『02.そんな再会。』
花太郎との会話から数日。傷は予想通り跡形もなく癒えた。
ここ数日間の忙しさもひと段落ついて、ちょうど良いと十二番隊を訪ねてみた。手にはタイヤキの包み。未だかつてこれが嫌いな女には出合ったことがない、と安易に選んだが実のところ自分が食べたかったからにすぎない。
ところが尋ねた十二番隊で目的の人物は非番だったらしく、相変わらず一風変わっている面々に恐らく隊舎の自室にいるだろうと教えられてわざわざ部屋をのぞきに行ったのだが。
「………『無断立入御免』?」
隊舎とは言えここにプライベートというものがある。そんなことは当たり前の話だし、席官にはそこそこ良い部屋が与えられているのだから、施錠も厳重にできるはず。更に横に書き加えられた振動厳禁の文字。ますますわけが分からない。
とりあえず外から声をかけるが、反応はない。何度か試みたが結果は同じ。留守かと思えば中にわずかな霊圧が感じられるし、眠っているわけでもなさそうだった。
もしや居留守かと考えるとむっとしてくる。手にしているタイヤキはすっかり冷めてしまっている。勿論冷めても冷めたで上手いのがタイヤキの良いところだが、焼きたての味はその時にしか味わえない。勝手に訪ねてきたのはこちらだと重々承知だが、居留守を使われれば良い気分はしない。少しばかり苛立ちながら扉に手をかければ、それは何の抵抗もなくするりと開く。居留守を使うなら徹底しろと思いながら再び声をかけようとして、そのまま恋次はぽかんと口を開けた。
「……なんじゃこりゃ」
目の前、うずたかく積まれた本の塔。扉を開けたすぐそこまで本。視界いっぱいに紙の束で埋め尽くされている。あまりの光景に思考が一時停止するが、その本の海の中に気配があるのに気付き、一歩部屋へと足を踏み入れた。
「おい、……」
ぎちり、と床が嫌な音を立てる。その音を聞きつけたのか、本の海に黒いものが動くのが見えた。もう一歩進む。
「あっ、こら!」
鋭い声に思わず身を引いた。と、引いた腕が背後の本の塔に当たる。
「げぇっ!」
絶妙なバランスでどうにか立っていた塔は、支えの手も甲斐なく雪崩となって恋次に襲いかかる。本というものは一冊二冊であればさしたる重さもないが、これだけの数となると十分脅威となるのだということを恋次はその身をもって思い知った。
遠く盛大なため息をつくのが聞こえたのは、ようやく雪崩が止まった時だった。
「ま……ったく……どこの馬鹿だよ、勝手に入ってくんなって書いてんだろがッ」
忌々しげに毒づきながらも助けてくれる気はあるらしい。恋次を覆う本がバサバサとどかされていく。やっと動きがとれるようになって丁度顔の上にあった本を乱暴にどけた。
「…馬鹿で悪かったな」
「げ」
本の中から現れた恋次に、部屋の主、は盛大に顔をしかめて見せた。確かに非番の日に他隊の、それも副隊長が尋ねてくる理由などそう思いつきはしない。
「なんで、えー…阿散井副隊長が、ここに?」
不自然に空いた間に思うところはあるがそこはひとまず置いて。
残りの本を何とかかき分けて海に立った。掃除はしてあるのだろうか、全体的にほこりっぽい。恋次とて決して偉そうなことが言える身ではないが、この部屋のとっ散らかり様は更に上をいっている。恋次がひと山を崩したこともあるがまともに床が見えない。
「この間の礼言いに来たんだがな…あーあ、つぶれちまってるぜ」
発掘したタイヤキは見事にペチャンコになり中身がはみ出してしまっている。情けない土産になってしまった。
それは、どうも…ともごもご礼を口にしただったが、またもや床が悲鳴を上げたことで我に返ったらしい。慌てて恋次を部屋の外へと押し出し始めた。
「ちょ、兎に角外に!」
「は?なん…」
「外出て下さいって!あんたデカ過ぎて床抜ける!!」
「床って、おいこれ」
「アリガトゴザイマス!!これ直さなきゃなんねーんで失礼します!!」
果たして締め出しを喰らって恋次が事の次第を理解するまで、どれほどの時間を要したのか知る者はいない。
2011/01/14
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