33
尸魂界の空座町。
現世と隠世の混じり合う場所からまた離れた所で、衝撃が走った。木々も岩山も消し飛ばし、地を割り、二度、三度、それ以上も空間を歪めるほどの。
けれど奇妙な。
巨大な力があることは明白。だのにそれが、ひとつしか感じられない。ひとつを受け、弾くものがあるのは確かなのに、対峙するもう一方がどこにあるのか分からない。
まるでただの力の暴走―――
火柱が上がった。一際大きい、藍染の力。
地が抉れて消え、その中に一護がいた。確かにいるのに、何もない一護が。
その右腕から黒い炎にも似たものが立ち上り一護を包み込んでいく。何もかもが黒に包まれて、刃が生まれる。
刃の名は、黒崎一護。
黒い斬波が天をも割らんほど高く昇った。終焉だと、誰が言ったろうか。
それなのに。
一護は倒れ、藍染は立った。
一護から黒が消えていく。力が消えていく。
「君の敗けだ、黒崎一護」
藍染の斬魄刀もまた、消えていく。
「君ならこの意味が解るだろう」
更なる高みへ、一護を遥か凌ぐ高みへ登り詰めると、高らかな宣言。
―――終わりだ、黒崎一護。
藍染が告げ終わるのと、斬魄刀が消え去るのと、同時に。
無から刃が生えた。
「……な、に……ッ?」
藍染の背後から、藍染の胸を深々と貫く刃が、宙から生えていた。
空間が切り裂かれて。
「下がれ、一護」
冷たく凍てついた声。
空間の亀裂が広がった。のぞいたのは、薄墨色。
一護の唇がその人の名を象ったが、音にはならなかった。
「…貴、様ァァァ!!!」
藍染の両腕が、その胸から生える刃を掴んだ。
「こんな、こんなもので私が倒れるとでも思っているのかアッ!!」
まるで野の花を手折るように容易く、の斬魄刀が折れ、砕ける。だが、
「思うはずもない」
今度はその腕が、藍染の首にしかと巻きついた。夜一の手甲にも似た強化の道具か、白いもので覆われた腕で。更には縛道の、と詠唱が続き、霊力で出来た鎖が二人の胴をまとめて縛り上げた。
「ぐうっ…!」
の強化された膂力に、藍染の体が後ろに引きずられる。その先には、穴が。の裂いた穴が、大きく口を開けて餌を待っていた。
「…ッ、そこに共に落ちるか。心中のつもりならば愚かの極みだ、!!」
藍染の手から放たれた力が自らの肉もこそぎ、の腹を吹き飛ばした。すぐさま藍染のそれは回復する。背後から夥しい量のの鮮血を浴びながら。
「…鍵は、折れた…」
真紅に染まりながら、の呟く声は一護にも届いた。鍵と言われて砕け落ちた斬魄刀を見る。宙を切り裂いたはまさしくこの、絶虎という名の斬魄刀だった。
「閉じれば、仕舞いだ。鍵をなくして誰も開けられない。内からも、外からも…」
「愚かな…愚かな!!崩玉を手にした私に開けぬ扉など」
「なくとも。時は、稼げる…。一年でも、それ以下、でも…」
時があればきっと再び、仲間が立つ。
一護がいる。皆が、いる。
薄墨色が温かな陽の色を見た。温かな、陽の色を。
「やめろ…、やめろさんッ!!」
「言ったはずだ、藍染…!全てが貴様の、手の内に収まるはずなどない…ッ」
「貴様…貴様ァァァッ!!」
諸共焼き尽くさんと、新たな火柱が立ち上る。白い手甲が削られていく。
その時、ガゴ、と。
藍染の。
胸に開いた穴から光が。
「離れるんだ、サンッ!」
友の言葉には躊躇を見せなかった。藍染を倒すチャンスを棄てるのではと、迷いなどしなかった。或いはただ限界だったか。鬼道の鎖が砕け散る。同時にの体も落ちた。
「浦原、喜助…!」
お前の仕業かなどと、確かめるまでもない。
無駄な足掻きよ、愚物たち。
その頭脳を、力を、正しい道へといかさずいた罪人よ。
私は更なる進化を。私を封じることなど。
尚も藍染は言ったが、その進化は最早二度と訪れなかった。
「…な……」
パキリと崩壊の音を立てたのは藍染の力だった。
「何だこれは……!!」
誰の目にも明らかな崩壊。
「それが、“崩玉の意思”ッス。……崩玉はアナタを、主とは認めないと言ってるんスよ」
馬鹿なと。そんな訳があるかと。
喜助を、その喉から血が噴き出すほどの苛烈さで罵る様こそ、最期を物語る。
勝者が。
敗者が。
世界とは。
私、は。
槍にもにた鬼道の光は、墓標にもまた似て。
最期から、一護は目を逸らした。
2011/03/29
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