一月近く後、倒れた一護が目を覚ました。
 何の障害もなく立って、歩き、話をする一護に、ルキアは深い深い安堵を覚えていた。消えていく力を淋しく思いながら。
 それでも良かった。
 一護は生きている。
 その名に相応しく大切なものをひとつ、世界をひとつ丸ごと護って、自身もちゃんと生きている。
 良かった。
 青い本物の空の下恐らく最後となる言葉を交わした。一護の回復を見届けたならば、ルキアもすぐ尸魂界へ戻らねばならない。

「戻るんだな、向こうに」
「ああ。お前の無事を報告して、私の役目は終わりだ」
「そっか、」

 尸魂界では、これまで以上に忙しない日々が待っている。だが望むところだとルキアは思った。きっと誰もが、今はそう思っている。

「……よろしく、伝えといてくれ。みんなに」

 消えていく力。消えていくだろう、自分。
 記憶だけは消えないと、その眼差しは最後まで温かく。

「じゃあな、ルキア」

「ありがとう」

 ありがとう、私の友だち。
 なにをと言い切れるものではないけれど、
 なにをとそれでも言うならば、
 全てをありがとう、私の友だち。
 お前の護ってくれた世界に、私も帰ろう。
 待っているはずだから、私を。
 仲間が、家族が待っている。
 約束が、待っている。

「…帰るとも、今」

 温かな陽の色の周りを一巡りして、ルキアの手に、黒い蝶が戻る。
 扉が開いて、静かに閉じた。

2011/03/29







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