31
四番隊の隊士達は、概して戦いには向いていない。上位席官ともなればそれなりの力を持っているものだが、第七席山田花太郎は自他共に認める典型的な四番隊隊士。はっきり言って治癒鬼道以外はてんで役に立たない。治癒以外で斬魄刀を扱うのは下手だし、瞬歩も未だ未修得。縛道は何とか人並みだが破道となると一転威力も命中率もがくんと落ちる。
そも、戦う事が苦手だった。
だって怖い。痛い思いをするのは嫌だし、させるのも嫌だ。その恐れが死神としての成長を妨げていると、上司の三席辺りには事ある毎に言われる。自分でも分かっている。
死神になんかなるんじゃなかった、というか何で死神になれたんだ、この僕が。考えたことも一度や二度ではなかった。そして今もまさしく、そう考えてる真っ最中だったりする。
「ひ、ぅッ…!」
物陰にいた自分の頭の上を瓦礫がすごい速さで飛んでいった。咄嗟に屈んでいなければ首が同じ速さで胴ら離れていただろう。
虚圏は、花太郎が想像していたよりずっと恐ろしい場所だった。虚が山といる。ただの虚ではない。大虚だ、破面だ。花太郎が百人いたって適わない。桁が違う。
瓦礫の向こうでは阿散井副隊長をはじめ、自分より遥かに強い人たちが戦っている。それでも、やっとだ。
役に立ちたいと思わないわけがない。でも自分刀を振るった所で役には立たない。足を引っ張らないでいる為にはこうしているのが最善なのだ。
「……ッ!!」
また、今度は遥か頭上で衝撃音が上がった。敵の力なのか味方の力なのか、入り乱れて分からない。微かに死神代行、黒崎一護の気配があるような気もするのだけれど、確証はない。
怪我人を探して駆けつけなければならないのに、そう思うのに、大きすぎる霊力に中てられ足が竦んでいる。
駄目だやっぱり、怖い。
逃げよう、と花太郎は震える足を叱咤して何とか立ち上がる。
ここにじっとしていては、いずれ敵に見つかる。わずかでも、危険の少ない所へ、逃げないと。
「……いるの、か…誰、か」
見つかった。
花太郎は文字通り飛び上がった。背後からの声に悲鳴を上げて、一目散に逃げ出したかったけれど。どこまでも情けないことに足が崩れた。
終わった。ここで自分は死ぬのだ。
そう思ったのだけれど。
「四番、隊…?」
敵では有り得ない言葉に首が反射で後ろを向いた。
敵ではなかった。黒の死覇装。花太郎の同胞。
「あ、貴方は」
誰何するより先に死神の男が膝を折った。
「あッ!」
ぐらりと倒れる体の下に潜り込んで支える。これもまた反射だった。
男は花太郎よりも一回り以上大柄で、酷い怪我の為に力も抜けて見た目以上に重く思った。両腕にどろりと嫌な、だが馴染み深い液体の感触が伝う。
「だっ…大丈夫ですか、しっかりして下さいぃ!」
言いながら大丈夫ではないと分かる。血が流れすぎている、霊力が枯渇している。接近にも気づかないはずだ、殆ど一緒に倒れるようにして地に体を横たえた。花太郎自身の腕もほんの一時で赤く染め抜かれている。
一番酷いのは腹の傷。腕、手も酷い。指が落とされかかっている。動かない肩は折れてはいないか。
まず腹の傷をふさぐべきだ。次に指、腕。合わせる薬は。
肩に掛けた救急袋を下ろしながら花太郎の頭は恐ろしいほどの速さで回転を始めた。意識は全て、目の前の同胞に注がれている。
「しっかり!僕の声を聞いてて下さい、寝ちゃ駄目です!」
深手の腹を探られ同胞は呻いた。長い髪が、朱に染まっていた。その隙間から少し不思議な色合いの眼が覗いて、花太郎を見る。
「……頼む…」
自分も、戦うのだから。
迷いの何一つない、強い強い瞳。
「………ハイッ!!」
四番隊の隊士達は、概して戦いには向いていない。上位席官ともなればそれなりの力を持っているものだが、第七席山田花太郎は自他共に認める典型的な四番隊隊士。はっきり言って治癒鬼道以外はてんで役に立たない。
戦う事が苦手だ。
だって怖い。痛い思いをするのは嫌だし、させるのも嫌だ。
その恐れこそ死神としての成長を妨げている。自分でも分かっている。
だって自分は根っからの四番隊隊士だから。恐れるのだ、喪うことを。
喪うことを恐れるから、喪わないように。治癒鬼道以外はてんで役に立たないけれど、それだけは。
目の前のこの命はなくさないようにと、それだけ。
四番隊、山田花太郎の戦場はここにある。
2011/03/28
|