28

 薄墨色の髪と瞳をした小さな破面は硝子玉のような目で、同じ色をした男を見ている。成長する前の小ささと終えた後の大きさと、その差はあれど見合う二つは恐ろしい程酷似していた。

「名乗りたまえ、彼に」

 促されて小さな破面は口を開く。

「……

 応じた声は外見に相応しく高い。ただ震えてはいるが。

「君らが良く似ているのは、君と彼が双子だからだ」

 そうだね、と藍染の確認に小さな薄墨色は返事をしなかったが否定もしなかった。ただ瞳に怯えが揺らめく。傍らの藍染と、相対する男に対して。

「………証は、あるのか」
「証?」
「それが…俺の、弟だと」

 苦い表情は藍染にとりただ笑いを誘うものでしかない。

「愚問も愚問だよ、君」

 今更、証などと。

「確かに確固としたものはないが、他でもない君こそ一番分かっているだろう。自分と彼がどれほど近しい存在か」

 片方は大きく片方は小さい。片方は死神で片方は破面。歴然とした違いにも関わらず確かに横たわる真実を無視することは出来ず。

「…納得してもらえて、良かった」

 とうとう、耐え切れぬと目をつむったに藍染は微笑みかけた。

「そう、君たちは紛れもなく血を分けた兄弟。遥か昔、流魂の片隅で共にあった」

 否定の声はあがらない。兄弟のどちらからも。

「幼い君たちは力を合わせて生きていた。兄は弟の為に、弟は兄の為に。けれど何時でも何処でも、平穏な時というものは長く続かない」

 或いは最初から、そんなものはなかったのかのかもしれない。
 まるで子供に聞かせる寝物語のように、藍染は滔々と語る。

「君たちは二人とも力があった。だから何時も空腹を抱えていた。それが故の、君の力だ」

 分かるだろう、

「君の斬魄刀は“喰らう”斬魄刀。喰らって全てを無に帰す。対象は問わない。有象無象、果ては時間も空間も」

 おぞましい、と白靄にまとわりつかれながら東仙は思った。目が見えずともそれ以外の全てでもって東仙は仔細に感じることが出来る。双極の丘で相対した時よりもずっと濃く、大きく、背を粟立たせる冷徹な霊圧に、だが頷けるとも考えた。この強欲さならば、己の半身も喰らえるだろうと。

「…ただの偶然か、双子とは言え兄と弟の差か。君は彼より先に力に目覚めた。目覚め、真っ先に喰らったのが、己の弟だった」

 あたかも堕ちたばかりの虚のように。

「そして忘れた。記憶を葬り、逃げた」

 これこそが君がずっと探し求めてきた真実だ。
 耳が痛くなるほどの沈黙が、しばし落ちる。そして藍染の腕が静かに持ち上がった。侮蔑と憐れみと許しの笑みを浮かべ、さぁ、と掌を差し伸べる。

「我々と共に来たまえ、罪人よ」

 君が犯してしまった罪は、あの歪んだ世界が君に強いたものに他ならない。
 君の罪は君のものである以前にあの世界のものだ。
 罪は贖わなければならない。だが贖うのは、君でなくとも良い。
 もし君があくまで罪を負うというのなら、世界の歪みを正すことこそ贖罪になる。

「我々が共にあれば、素晴らしい互助となるだろう。…きっと彼も、喜ぶ」

 相槌を促すように、藍染が傍らのものにも手を伸ばす。だが、その手が小さな肩に置かれることはなかった。
 一陣の、強い霊圧を孕んだ風が湧き起こった。藍染の、東仙たちの衣を巻き上げ、地を割り、空間を裂いた。

「……どういう、結論の発露だろうか?」

 視線が白靄を辿る。源は、再び藍染の背後。右手に斬魄刀を構え、左の脇に小さな破面の少年を抱えた死神の、
 俺の罪だ、と苦渋の声が応えた。

「俺の罪は、俺が背負う。貴様に抱え込んでもらう必要はない」
「…自ら必要ない罪を負うとは随分と被虐的なことだが、それからどうする。どうやって償うというのだ、その罪を。我々を倒すことが贖罪になるとでも?」
「黙れ。…何もかもが、貴様の手の内に収まると思うな」

 くくっと、思わずといった風に藍染が嘲った。

「…さて。それならば、良かったのだが」

 呟きは一種の合図となり。
 鮮やかな赤が、の胸からし吹いた。

「が……ッ!?」

 更に真横からの衝撃を受けてその体が飛び、転がる。
 おれに触るな。お前が、俺に。
 温度のない、高い声。
 残念だ、と続いた藍染の声に目を見開けば、眼前に立つ同じ色の破面。硝子玉の目には怯えに取って代わった怒りの火が、揺らめいていた。

「残念だ、心から。君のその得難い能力を私はとても評価していたのだが、」

 闇の中に銀光が閃く。背丈に合わせた小さな手が抱える、小振りの刃。

「君らは元々同じもの。一方の手に入れたものを、もう片方が手にできない道理はない」

 むさぼれ、と高い音は幻聴ではなかった。
 薄くなったの白い靄を取り込むよう生み出される同じもの。だが源の異なるもの。

「―――ぜっこ」

 絶望は、望みがなくとも出来る。



「…破面として生まれなおした弟の糧となる。或いは最上の贖罪かもしれないな」
 
 晩餐の邪魔をしてはいけないと、藍染は市丸たちを伴い再び闇に姿を消す。
 破面に、待っているよと声をかけて。

「彼の力を得た後、再び会えることを」

2011/03/20







back  top  next