09
物音に、最初に気付いたのは茶渡だった。ごとり、と何かが倒れる音。大きくはないそれが耳に届いたのは音源が近いかららしい。
よく分からない言い争いをしている石田と岩鷲に静かにするよう言ったが、それ以上は何も聞こえない。代わりに近づく気配があった。鉄格子の向こうに現れたのは、一人の死神。
「茶渡、か?」
名を呼ばれ思わず声をあげてしまう。今更名前を隠す必要もなかったが、広く知られているはずはない。死神は更に石田と岩鷲の名も姿も正確に認識しているらしかった。
何と答えるべきか迷ったまま黙った三人だったが、それでも否定しないことにわずかに頷き死神はじゃらりと鍵の束を鳴らし牢を開けた。呆気に取られている自分たちに構わず、死神の黒い装束を押し付ける。そこでようやく我に返ったか岩鷲が声を上げた。
「てっ、てめぇ、どこのどいつだ!?」
「という。黒崎一護からお前たちのことは任された」
「って…もしかして貴方が、夜一さんの知り合いの?」
今の今まですっかり忘れていたが、事前に聞かされていた唯一の味方らしい。
「…一護は、今どこに…?」
「夜一と共にいる。あと一人、井上という旅禍は…」
の言葉を遮り、また何か音がした。今度は先ほどより派手で、耳をすませる必要もない。更には近づいてきてもいる。
「―――すぐにここを離れ、」
死覇装に着替えた岩鷲が身を翻そうとするのと、天井から破壊音と共に何かが落ちてくるのと、ほぼ同時だった。
「な……何だ、何なんだ一体!!?」
「て、てめぇは…!」
土煙の中から、覚えのある霊圧が現れる。見上げるほどの巨躯と、死神の黒装束に白い羽織。
「更木剣八…ッ!!?」
「逃げろ!」
叫ぶ岩鷲たちの前に、斬魄刀を抜いたが飛び出した。その霊圧が急激に濃度を上げる。
「何だァ?てめぇは…」
「まっ、待って待って!!」
応じようとする更木の後ろから、だが高い制止の声があがる。続いてひょいと明るい茶色がその肩の上に姿を現した。
「い、井上さん!?」
「良かった、みんな無事だったんだ…よ、ね?」
斬魄刀を構えたままのと石田たちを見比べて井上が固まる。未だ構えを解いていないに、今にも斬りかかっていきそうな更木とその部下。双方の霊圧がぶつかりあい張り詰めた空気がぴりぴりと肌を走っていく。
「さん…ッ」
「いたぞ!!」
慌てて石田が声を上げるのと、ほぼ同時に声が重なる。次いで駆けつける沢山の足音。盛大な舌打ちをして更木とその部下が斬魄刀の切っ先を返した。
「兎に角今は…」
「ここを切り抜けるのが先ってこった!!」
現れた死神たちに凶悪な斬魄刀が容赦なく襲いかかった。護廷最強と名高い十一番隊の、しかも隊長格三人を相手に敵う者はなく、悲鳴と共に次々と死神の山が出来上がっていく。先頭を行く更木の背には当然井上が乗ったままで、遠ざかる悲鳴を慌てて石田たちが追う。
殿は、斬魄刀を鞘におさめただった。
2011/01/05
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