05
罪人が、尸魂界へと連れ戻された。
噂が瀞霊廷中を駆け巡った。
人間に力を譲渡したと。
大虚の出現にも関係していると。
連れ戻したのは六番隊の朽木隊長と阿散井副隊長であると。
―――大罪人は朽木家の者だと。
牢の中は静かだった。
日に数度、食事と所用以外に扉は開かない。それが良い、と一人白い壁に向かいながらルキアは思った。
自分が死神になってから周りにはいつも煩わしい音があった。聞くまいとしても聞こえてしまうそれらも、今ばかりはない。恐らく牢の向こうでは溢れかえっていようが、この耳に届かなければそれで良い。―――義兄には、申し訳ないと思うが。
表面上は下らぬ事と黙殺しているだろうが、事実あの人にとっては瑣末であろうが、それ故にこの度の雑音はなおのこと煩わしいに違いない。
上役たちにも済まなく思う。
目をかけてもらっていた。報いることが出来ず、不甲斐ない結果を招いてしまった未熟さが辛い。特に浮竹隊長はとても部下思いでいるから。どうか必要以上に思わないでいて欲しい。自惚れに終わるなら、良いが。
そして、恋次にもまた、辛い思いをさせたことだろう。
長く一緒に過ごした友だ。道は分かたれたが、かつては仲間で家族だった。心根の良さは、きっとルキアが一番良く知っている。再会がこんな形で成されるとは、予想だにしていなかった。折角の昇進を祝ってやることも、もう出来ない。
息を詰めて、目を閉じた。たった一つ視界にあった白い壁もなくなって、闇に包まれる。
(…海燕殿、)
蘇る最後。刃を突き立てた肉の感触。
牢の中は確かに静寂であるはずなのに、ルキアの内側ばかり騒がしい。
息を吐いた。
闇に一つ、明るい陽の光が宿った。
現世の少年。一護。己の所為で運命をねじ曲げた。
一護のことを考える度、罪深さが身を震わせる。確かに自分は過ちを犯したと、胸に詰まる。
恨まれているなら、まだ良い。それこそ自分が背負う罪であり、望んで受ける。
けれどルキアの中に、自分に恨みや憎しみの眼差しを向ける一護をどうしても見つけることが出来ない。たった二月の付き合いだ、知ったと言ってどれほどのものか。しかしそんな気がして、ならない。
肩を並べて笑いあったり肩肘張らずに付き合うことが出来る。久しく忘れていた、友という存在。不思議に心地いい時間をもらった。
それなのに。
罰せられる前に、せめて一護に償いをしたかった。朽木の名を有難がったことはことはないが、今度ばかりはそれを振りかざすことも辞さない覚悟ではあった。結局、その機会すら与えられはしなかったけれど。
そういえばと、現世でわずかに言葉を交わしたあの死神を思い出す。確か二番隊の、と名乗っていたが。折角見逃してくれたのに意味なく終わってしまった。連れ戻されてから一度も追及されていないし、いまだその事実は隠し果せているのだろうとは思うが、事が明らかになればあの者も処罰は免れまい。どんな思惑でルキアを逃してくれたのかは分からないが、どうかこれ以上自分の所為で害を受ける者が増えないでほしい。
何にせよ、最早ルキアには祈ることしかできなかった。
何もできなかった。
助けられなかった。
傷つけた。
そんな記憶ばかりだ。
自ら死を望みはしないけれど、終わりだと言うならば受け入れよう。
謝罪と祈りを、夢で繰り返した。
2011/01/01
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