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04 欠けるところのない月の光は、影を生むほどに明るい。だが決して昼の日の光と間違えることはない。間に生まれる闇が二つを明確に隔てるために。 何故だか人間は、死神が動くのは夜が常套だと思っている節がある。だが現実、動くのに昼も夜もない。 確かにその存在は秘するべきだが、そも生者は死神の姿を認められない。つまり死神が本来の務めを果たすに、闇に身を紛らわせる必要はない。必要とするのは大抵同胞の目から逃れようとする時で、その点において人間たちと変わりない。 然らば今夜のこの闇は、隠れ蓑には薄すぎる。この世ならざる身なれば影は生まないが、今は違う。下手をすれば目をつけられかねない、他ならぬ同胞に。だが今はその危険を冒しても動かねばならなかった。時間がない。 真田という死神を信じないわけではない。信じる信じないの次元ではない。あの時点で連れ戻されても何らおかしくなかった。それを見逃してくれた、それだけで十分に過ぎる。 兎に角、今は一刻も早く。 月に照らされ影を作り駆けながら、偽りの重い肉体にじれる。せめて力が戻っていれば。 無視しきれない違和に、別れ際の会話が脳裏に蘇った。 「朽木殿」 呼びかけに義骸の肩が滑稽なほど大きく震えた。それを黙殺したのは、真田の配慮と言って良いのだろう。 「…先ほど、負傷されたのは二月ほど前と言っていたが、それからずっと義骸に?」 「は、はい」 「どれほどの傷かは知らないが、二月も義骸に入って回復しないとは、少し妙なのでは」 「それは…確かに。ですが実際、今の私は初歩の鬼道をまともに打つこともままならぬのです」 ルキアが言葉を重ねずとも少し探ればすぐ分かる事実であり、真田も無言で肯定を返した。 「…少し、よろしいか」 「は、」 おもむろにその手が伸び、返事をする前にルキアの肩に触れる。真田の霊圧が電流のように義骸を駆け巡った。それは一瞬のことで流れた霊圧もほんのわずかだったが、思わずたたらを踏む。 「真田、殿」 視線があった。筈だが薄墨色の瞳はルキアを見ているようには思えなかった。 「な、何か、分かりましたか…?」 声が揺らいでいるのが情けない。再度呼びかけてやっと、我にかえったように真田は目を瞬かせた。 「いや……申し訳ない。自分にも分からなかった…」 「そう、ですか…?」 それ以上の会話はなかった。訝しく思えど追及のしようがなかった。例え原因が分かっても、それを除いて今すぐ力が戻るとは思えない。 回復しない力。 乏しい霊圧。 現れた大虚。 退けた少年。 分からないことばかりで気分が悪い。何故、何故と考えても答えは出ない。 その全ての原因が、自分のあの過ちにあるのだと、思えばまた辛い。 「私は…少し、こちらの世界に長く関わりすぎたのか…」 ただの呟きに、答えがかえるとは思っていなかったのだ。