02
気づかなかったのは、疲弊していたから。
決して油断していたわけではない。
「待て」
夜の闇に低く、這うように響く声が耳に届いた。
その、吸引力。
糸をひかれた操り人形のように二人同時に振り返る。そこには、一人の死神が闇にまぎれて立っていた。
一護が反射的に刀に手をかける。考えての行動ではない。むしろルキアと同じ死神なら味方と言えるだろうに、ただ本能が背後に立つ存在に毛を逆立てたのだった。
「―――誰、だ」
「二番隊十九席、」
さらりと、答えが返る。
音もなく歩み寄った死神は男で、好き勝手に伸びた髪のため表情はよく見えないが、体躯は大きい。
「そちらは死神か、人間か?」
と名乗った男の質問に、一護は何と答えるべきか一瞬迷った。意図があって迷ったわけではないが、声にはどこか咎めるような色がある。横目でみたルキアの表情は、険しい。
「……見りゃ、分かんだろ」
「ならば所属は」
一護の拙い誤魔化しなど通用しなかったらしい。死神の合い言葉のようなものか。意味もわからず、何と答えるべきか分からない。
男の右手が腰に差した斬魄刀に伸びる。一護が構えを深くする。
「待て、一護!」
先手必勝とばかりに利き足に力を込めていたが、ルキアの声にそれは霧散した。隙を突かれるかと思ったがタイミングを逸したのは相手も同じらしい。右手は刀に掛ったままだが、霊圧と呼ばれるものが薄くなったのが一護にも分かった。
「ルキア」
「殿、死神は私です。この者は私に手を貸しているだけで…人間です」
「死神ならば、名と所属を教えていただきたい」
「十三番隊の、…朽木、ルキアと申します」
ルキアの答えは男、と言う名の死神を納得させるに取りあえずは足るものだったらしい。殺気が薄くなっていく。
「では朽木殿。何故、」
「お話いたします。ですから」
の言葉をルキアが遮る。視線が交差し、死神の言葉が無言で交わされた。
「一護」
「あ?」
「お前は先に帰っておれ」
「はぁ?今更除け者に…」
言い募ろうとして、再び名前を呼ばれる。いつもの高圧的な声ではなく、どこか懇願するような、静かな。
舌打ちを一つ。普段は全く見たままのくせ、時折こうして大人の面をする。ガキをいなす方法を良く知る大人の面だ。言う通りにするのも癪だが、反発してガキ臭さをさらすのはもっと癪だった。
「……さっさと戻って来いよ!」
何だか悪者の捨てゼリフのようだと思いながら、その場を後にしたのだった。
良い気分ではなかったのは、何も除け者にされたからだけではない。漠然とした、悪い変化の予感。
自分には不可侵の世界が、肌を撫ぜていった。
2011/01/01
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