01
「檜佐木副隊長ぉー、今よろしいですかぁ?」
資料室で次の瀞霊廷通信のネタを漁っているところに、ひょこりと顔を出したのは自隊の三席、つまり副官補佐のだった。
「おう、何だ」
ちょこちょこと駆け寄ってきたのにちらりと視線を寄越してから、再び資料に目を落とす。編集者としてはまだまだだから、九番隊に割り振られた紙面を埋めるには自分が尽力せねばなるまい。俺ってば文武両道だから頼りにされて参っちゃうね、と慰めるような溜息をつく。
「来週の分、計画案仕上がりましたー」
「昨日のアレもう出来たのか?」
「半分は。もう半分は報告待ちです」
「遅ぇなー」
「やっぱり第五班はもうちょっと増やした方が良かったですか」
「みたいだな」
檜佐木が副隊長になり、それからほとんど間をおかずが三席となった。今の地位についてほぼ同時に一からやってきたからか、二人でいれば通常隊務のほとんどがアレソレで通じる話の速さがある。そのことで熟年夫婦みたいなどと言われたことは一度や二度ではないが、隊長と副隊長、副隊長と三席なんて長くやっていればおおよそ何処の隊でもそんなものだから気にしたことはない。加えてそう言われた時には決まってが「勘弁して下さいよぅ」とヘラヘラしながら怖い空気を出すので、今や誰も口にしなくなった。
こっちだってご免だと檜佐木も思う。
とのコンビの良さは認める。正直なところ、例え有能でも以外の補佐を充てられて、今と同じ仕事の速さを保てるかどうか自信がない。東仙元隊長が離反した時、がいなければ、自分一人で九番隊を支え切れなかったろうとまで思う。
「檜佐木副隊長こそまぁだネタ探しですかぁ?下手に凝るより、編集切羽詰る前に原稿出された方が有益ですよぅ」
しかしは檜佐木の好みではない。
「お前な、編集者の言うことかよ。俺は一号毎その品質を上げていこうとだな…」
「頭の中の文章は誰も読めませんよー?」
知ってましたぁ?とは笑顔で皮肉を垂れる。思わず血管が浮かび上がりそうになるが一瞬で抑える。これにももう慣れた。にこにこと笑顔だけは可愛らしいのが一層腹立たしいが。
そう、見た目は可愛らしい。白い肌に丁度いい目鼻の配置。ぱっちりとした丸い目に、長い睫毛。背丈は檜佐木の胸より下で、体型は多少標準より丸いがまぁ個人の好みの範疇と言える。つまり総合して、一般的には美少女と評すにふさわしい外見をしている。
だが如何せん中身が、厳しい。
ヘラヘラと間延びした喋り方で、言うことがキツイ。なまじそれが正論なものだから癪に障る。三席としての実力があるから半端な者では力で屈服させることも難しい。あとかなり手も早く、仕事は丁寧だが例えば部下の指導では容赦なく鉄拳を飛ばしている。
檜佐木の好みはたおやかな淑女、だ。外見は豊かななのが好ましいだとか、細かく言えばキリがないし意味もなくなるが、兎に角は好みではないことだけははっきりしている。というか最早そういう目では見ていない。が檜佐木に対して遠慮のない物言いをするのも単に長い付き合い故のことで、咎めるのも面倒くさく放棄している。
「…んで、何だよ?」
資料を読むのを諦めて問うてやれば、の表情が少し改まる。
先程の報告事項以外で、まだ何か言いたいことがあるのは見れば分かる。それこそ熟年夫婦、などと言われる所以なのだろうが。
「貴族会合の警護のことで、お願いがあります」
一年に一度、おおよそ全ての貴族たちが集まる会合が開かれる。瀞霊廷中の貴族たちが一堂に会し何を話し合うのか流魂街出身の檜佐木には分からないが、兎に角貴族たちにとっては大切な大切な集まりで、毎回護廷十三隊の一隊が順番に警護に当たる。今回は九番隊の順番だった。
「まだ半年も先じゃねぇか。何かあんのか」
「その日、外せない用事があります。どうか非番にさせて下さい」
「…ぁあ?」
貴族会合の警護は各隊にとって十三年に一度の大仕事であり、隊全体をあげてあたるべきもので上位席官の欠席などとても認められない。と、言おうとして思い至る。
「そういやお前、毎回いねぇもんな…」
十三年前の前回も、その前も。檜佐木の記憶にある限り、が貴族会合の警護に当たったことはない。事前の準備までは手伝うが当日は必ず休む。普通なら考えられないことだが、東仙はそれを許可していた。理由を訪ねたことはあったが教えてもらえなかったし、本人に問うこともやんわりとだが禁じられた。勿論自身も、誰にも話さない。
毎回、貴族会合の日は非番とすること。東仙との間にはそういう約束事が為されていたと見ていい。だが今回その東仙はいない。だから仕方なく檜佐木に交渉しに来た、と言うことだろう。ため息を、態と大きくついた。ほんのわずかの肩が震える。
「…良いぜ、俺は許可する」
の大きな瞳が瞬いた。
「聞こえなかったか?許可するっつってんだ。にもちゃんと言えよ」
「え…あ、はぁ…っと、ありがとうございます…」
「で、理由は何だ」
下を向いて、檜佐木に向けられた旋毛に問えば、そのまま頭は上がらなくなってしまう。
興味本位で知りたいわけではない。あくまで義務として尋ねた。
東仙がいない今、恐らく上位席官でが不参加の理由を知る者はいないだろう。下らない理由で大事な任務を放棄する奴ではないと知っているからこそ、副隊長たる自分は理由を知る必要がある。自身、尋ねられることくらい予想して、覚悟してきているはずだった。
ほんの少しの沈黙のあと、の顔が上がる。だが視線は交わらせず、応える声は殊更無感情だった。
「墓参り、です」
2011/05/05
|