04.叫ぶ


 男の手にした鋭利な刃が、女の腹を一文字に凪ぐ。

「ぐぅッ」

 だが浅い。女は体勢を立て直し男の頭めがけて蹴り込む。腹の傷など存在しないような素早い動きだった。しかしその細い足は、男の横っ面を叩く寸前で刀の背に止められてしまう。拙い逃げなければ。女が思うより早く弾かれ、倒れ込んだ。

「う、ぁ…ッ!」

 頭が、衝撃でくらくらする。目の前でチカチカと光が明滅し、何もかもあやふやに。自分に襲いかかってくる男の姿も顔も、手にした白刃も。

「止め、ろ…」

 白刃が炎を帯び始める。炎が完全に白刃を呑むまでわずかだが時間がある。反撃に、と思えど体は意思通りに動かない。警告音が脳内に鳴り響く。せめて逃げなければ。だがどこへ行けと言うのだ、この閉鎖された空間で。

「止めろ…ッ」

 時間がかかり一時は隙だらけになるという危険を負ってもなお、余りある威力。それがどれだけのものか、自分は既に知りすぎるほど知っている。ずっと傍で見てきたのだから。

「頼む、どうか」

 頭上に閃くのは最早白刃ではない。赤く赤く、燃える炎。
 惨めな命乞い。男の耳には届かないのか。無慈悲に、赤が振り下ろされた。

「止めろ一護―――ッ!!」





*

「う…ッせぇアホ!」
「ひでェ、ひでぇよ一護ォォ!俺の鈴々ちゃんがぁぁ」
「てめぇが弱いんだろーが!」
「一護が強過ぎんだよ!初心者なんて嘘だろッ一護の嘘つきィィィ」
「イヤ俺は強くねぇだろ」
「うん、が弱過ぎるね」
「水色まで…ッ」
「俺でも勝てるぜ、あれなら」
「啓吾黙れお前絶対明日ゾーキン水飲ませるかんな!!」
「なんで俺だけ!?のがひでぇよ!」
「………」
「チャド!チャドはこの格ゲーやったことねぇよな、新作だし!」
「確かにこれはない、が…」
「じゃあ一回だけ!一回だけ相手しろよ!」
「…一度だけなら」
「ぃよっしゃあ、かかってこいやー!」
「………なぁ、あの格ゲーって」
「うん、シリーズものだよね」
「ゲーセンにも大概置いてるよな」
「チャドってゲーセン行くよな」
「あっ、なぁなぁこれって三段論法ってやつ?」
「ちょっと違うような…」
「あははーと啓吾って似た者同士だよねー」
「ちょっ、それどういう意味!?」
「ぎゃぁぁぁ俺の鈴々―――!!」
「うるせーつってんだろこのアホ!」
「そういう意味です」
「水色さんヒドいッッ」

2011/06/09




仲良し(?)男子高生。多分男主の家。
鈴々はゲームキャラクターの名前。
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